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歴史的思考力を一過性でなく継続的に身につける方法

世界史要旨把握6中世ヨーロッパ史(6)カール大帝

今回の参考資料・引用元は

山川出版社発行の教科書『世界史探究 詳説世界史』2022年検定済23年発行

P96(11行目)~P97(16行目)「カール大帝

https://new-textbook.yamakawa.co.jp/w-history

 

冒頭文

この単元には冒頭文が、ありません。
厳密に言うと、少しあります。

ピピンの子カール大帝

これだけです。
でも、これだけで十分でしょう。
前の単元のラストでフランク王ピピンローマ教皇に土地をプレゼントしたとあるので、この単元はその続きの内容となります。

 

本文の要旨把握

この単元には、3つの段落があります。
ただ最後の段落は、単元内容のまとめになっています。その内容を引用すると

このようにローマ帝国以来存続した地中海世界は、西ヨーロッパ世界・東ヨーロッパ世界、そしてイスラーム世界の3つにわかれ、以後それぞれ独自の歴史を歩むことになった。

何か突然、世界の話になっています。
フランク王国の話なのに、???
よく「まとめと要旨は同じだ」という人がいますが、これを見れば全く違うことが分かると思います。
これは「…以来…、以後…」とあるので、時代の大きな流れの話です。

では、段落ごとに要旨を把握しましょう。繰り返し出てくる言葉は

第一段落

(カール) 大 帝 (ランゴバルド) 王 国 東 (ザクセン) 人 (アヴァール) (イスラーム) 西 (ヨーロッパ) 州 伯 (フランク) (ビザンツ) (ラテン) 語 (カロリング) (ルネサンス) 文字

固有名詞を除外すると、内容が薄いような印象に見えます。
しかし、要旨というのはそういう簡易なものです。

「大帝が現れた。東の諸王国や人々を征服・支配し西ヨーロッパを統一、州を置き伯を任命し、言語を確定し文字を作った」
という作文ができます。これがこの第一段落の要旨です。

その詳しい内容は、歴史的思考の範囲になるので後述します。

第二段落

(ローマ) 教会 皇 政治的 戴 冠 文化 独立 歴史 意義 (キリスト) 中世 世界 首長 (ギリシア

「ローマ教会は、カールを政治的に下に置く戴冠を行った。これは、西欧が独立の文化を持つにいたる歴史的な意義を持つ出来事で、ここにローマ教皇が首長である西ヨーロッパ中世世界が成立した」

教皇がその手に皇帝(ローマの)冠を持ちそれをとある人物の頭に置くという行動は、教皇がその人物を皇帝に任命したことを意味します。
ローマ皇帝は古代(キリスト教国教化以後)もビザンツも、即位時に教皇からこのような扱いを受けていませんでした。ローマ市民に推されてその地位に就くという形をとっていました。

このカールへの戴冠は、史上初めてキリスト教皇が皇帝を任命したことを意味します。
この結果、皇帝以下諸国の君主は全員、教皇の下位に置かれました。
さらに東のビザンツ皇帝に対しても教皇が優位に立つことを示しました。
もちろんビザンツ皇帝は反発し、そっぽを向きます。
(当時は逆にカールに好意的で、東西統一しようという機運もあったのですが)

従来は、世俗権力者が宗教を下位に置くという認識が普通でした。
ビザンツ皇帝の聖像崇拝禁止令の効力は、西欧にも及んでいたのです。
このとき西欧では宗教が世俗権力の上に立つと示し、東欧とは異なる社会文化であると表明したのです。

 

歴史的思考をする

要旨把握が基本で、これが応用であると前に書きましたが、上のような深い理解をするためにはこの歴史的思考(一つの言葉から思考を広げる)が欠かせないと思います。

大 帝 王 東 西 州 伯 語 文字 皇 戴(冠) 独立 中世 世界

本文の内容のほとんど全部ですね。
つまりこの単元には歴史的思考が満載で、歴史的思考なしで本文を理解できません。
ここは分量が非常に多くなります。関心のある事柄だけ読むのもいいでしょう。

*「戴冠」「独立」

まず、動詞2語を見ましょう。

戴冠というのは、冠を手に持ち他人の頭に載せるという意味です。
つまり、誰が冠を手に持ち、誰の頭に載せたかを確定する必要があります。
この場合は、キリスト教ローマ教会の首長である教皇が冠を手に持ち、フランク王カールの頭の上に載せました。

この人物特定は、とても大事なことです。
のちナポレオンが皇帝になるとき、従来通りローマ教皇が冠を手にしたのをナポレオンが奪い取り、自分の手で冠を自分の頭に載せました。
これは「皇帝になるのは自分の力でだ」という気持ちと、もう一つ「余はフランス革命の申し子だ。革命が冠を余の頭に載せるのだ」という気持ちがあったがゆえです。

なおナポレオンは、王妃の冠を手に持ち妻の頭に載せました。
つまり「わが夫婦は、かかあ天下じゃないぞ?亭主関白だぞ?」と表明したことになるのです(笑)。

独立という語も同様で、前は誰の支配を受けていたのかという人物特定が必要です。
ここでは、ビザンツ皇帝の支配から独立したという意味になります。

おや?フランク王国やローマ教会は、東のビザンツ皇帝に支配されていたのでしょうか?
確かに政治的には支配されていません。独立の国家であり地域です。
独立しているのに、なぜ独立?

ここで独立したのは、そもそも誰(その人を中心とする勢力)なのか特定する必要があります。
カールに冠を載せたのは、ローマ教皇です。
したがって独立したのは、ローマ教皇とその指導下にある西ヨーロッパのキリスト教正統派(カトリック)の信徒たちです。フランク王カールとその配下のゲルマン人たちも、この信徒ですね。

ということは、受けていた支配は政治的なものではなくて、宗教的なことだとわかります。
政治が宗教を支配するのは、当時は普通でした。
東のビザンツ皇帝は当時ヨーロッパ唯一の皇帝であり、古代以来の権威ある(ヨーロッパ全体に君臨すると考えられている)ローマ皇帝です。
その政治による宗教支配から脱却した、これが独立したという意味になります。

*「大」

カールにこの「大」称号をつけるのは、正直、違和感があります。
カールの事績を見る限り、確かにフランク王国を西ヨーロッパ全体に広げ(参照教科書の97ページの右上の地図)教皇から皇帝に任命されるなど特別の功績をあげています。
しかし、それが何だ?というわけです。

つまりこの「大」というのは、客観的な観点からの称号ではなく、特に現代のドイツ人・フランス人から見ると「われらが国の始祖様」「建国の英雄」に見えるという主観的なものです。
日本の歴史学界は、この主観的な称号をカール王の一般呼称として採用しているのです。

なおカールという呼び方も、実はドイツ語です。
フランスではカールのことを、シャルルマーニュと呼びます。
英語圏ではカールのことを、チャールズと呼びます。
(なおアルファベットの綴りは同じで、発音が違うのです)
このドイツ語読みを、日本の歴史学界が採用しているのです。

このように特に形容詞の語は大げさな表現であることが多く、ほとんどは主観に由来しています。
形容詞を見たら、誰の主観なのかを特定する必要があります。

*「帝」

これは、皇帝という意味です。
皇帝とは、どういう存在なのでしょうか?

ここでは「西ヨーロッパ全域に君臨する者」という意味に使っています。

一般的な意味は、いろいろな民族を内に含んだ広大な領土の支配者です。
皇帝を称していなくても、こう呼ぶ場合があります。
もちろん歴史上には、狭小な領土しか保有していないのに皇帝と称する例が少なくないのですが(「皇帝になりたい」という願望や「皇帝になるぞ」という決意の表明)。

この後に「王」という語があり、皇帝とよく比較されます。
古代中国では、諸王を征服し統一した秦の始皇帝の事績から、皇帝は王の上に立つものとされます。
その後、中国の皇帝は周辺諸国の君主に王の称号を与え形の上だけですが下位に置くという、朝貢外交を展開します。

*「東」「西」

対照語同士が文中に存在します。
ただここでは、フランク王国が東を制圧し、西ヨーロッパを確立というふうになっています。
これは、東からの脅威を防ぐことで、西を固めるという意味です。
それぞれに意味合いが異なるという例です。

東西交流の理解が世界史では重要といいますが、その東西は果たして対等だったのか、それとも一方が大きくて他方が小さかったのかということまで理解を深める必要があります。

古代ローマ帝国と、古代中国の漢王朝とは、ほぼ対等の関係だったと思われます。

しかし大航海時代のスペイン・ポルトガルと、アジアのオスマン帝国ムガル帝国サファヴィー朝明王朝とは、圧倒的に後者が強大です。
「大」航海時代という呼称やのちの欧米列強による植民地支配の知識が念頭に浮かび、ついつい「西欧が優勢でアジア諸帝国を圧倒していた」という誤った理解をする人が、実は少なくありません。
のちにアジアの諸帝国が衰え弱体化すると、ようやく西欧勢力がアジアに進出を開始します。その時代でさえ西欧がアジアを圧倒していたわけではありません。

*「州」

これは、地方組織の名称です。
古今東西の各国は、統治のさい特に国土が広大なときは各地域に独立の組織を作り日常の統治をそれぞれに任せ、中央からはときおり見に行く程度という体制を作ります。
いわゆる地方自治というものです。

実は地方自治は、伝統的な政治支配方式です。
古代中国では郡県制、古代日本では諸国、現代日本都道府県も、その地方組織の一つです。

中央との関係はいろいろで、ときおり見に行くだけとか、スパイを派遣して常時監視するとか、中央からの命令にほぼ服従とか。
フランク王国は1つめのもので、江戸時代は2つめのもの、現代日本は3つめのものですね。
中央から官吏を派遣する場合でも、日常的にはその官吏が中央から独立し統治し、緊急時に中央からの命令に完全服従というパターンが普通です。

*「伯」

のちに貴族の爵位の一つになりました。
一般的に知られる爵位は、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵のいわゆる公侯伯子男。
伯はこの3つめだから大したことないのかな?と思ったら、そうではないのです。

明治時代にも同じ5種類の爵位が作られましたが、伯爵は明治維新の元勲クラス(伊藤博文など)が総理大臣級になったときに叙される爵位でした。
絵画の世界でも「画伯」といいますね。画伯は、画家の大物というべき存在です。
明治時代の規則によると、上の2つは旧貴族や旧大名たちで、伯爵以下が一般人となっています。
諸国においても上2つは王族が叙せられ、一般人は伯爵止まりでした。(特に功績をあげたときは公爵・侯爵になる)

*「語」「文字」

これには、多種多様なものがあるという意味のほかに、それが国家の統一や社会の一体感醸成に役立つという意味もあります。

言葉や文字は、人と人がコミュニケーションをとるときの最大のツールです。
互いに共通のものを使うと、互いのコミュニケーションが大きく高まります。
そこで古今東西の統治者たちは、国内の言語や文字の統一に心を注ぎました。
具体的には、学校制度や教育制度を充実させ、そこで全国民に言語と文字を学ばせるというものです。

カール大帝は、文字を記した書籍を多数作りそれを皆に読ませるという新しい学習方法を採用させました。
従来の学習方法は、一人の教師が大きな声で教える内容を読み上げ、それを生徒が聞いて内容を書き記すというものでした。
前者の学習方法の最大の利点は、学習者のペースで独習可能な点です。
しかも口述されたものの筆記は、聞き間違いが多くあり不正確な学習になります。
現代日本の大学や高校の講義や授業でも、多くの教授や教員がこの口述筆記の方法で教えています。良くない教え方だと思います)

*「皇」

歴史上この字が出てくる場合は、3つあります。
皇帝、教皇天皇
日本語で「皇」とは、神に近い存在とか、国内を統治する最高権力者という意味です。
一般に、世界最高の権力者を意味します。

皇帝は、古代ヨーロッパ世界(ローマ)の世俗の最高権力者で、中世の西欧・東欧に現れた皇帝はその後継者です。
ローマ教皇は、キリスト教の一派であるローマ=カトリック教会の最高権力者で、この時期は西ヨーロッパ世界の世俗権力の全てを下位に置く最高権力者です。

このように、どの分野での最高権力者であるかを確定する必要があります。

*「中世」

歴史の時代区分の中で、最もあいまいな内容の時代を表します。
中世の中とは、中間という意味です。
そう、何と何の中間なのかを確定する必要があります。

「古代と近代の中間」だろうと思う人が多いですね。
確かに、抽象的にはそうです。
しかし具体的には、何と何の中間でしょうか?

人の働き方に注目すると、古代は奴隷制度、近代は雇われて給料をもらい働く、中世は農村から動けないが身の自由はあるというふうに、いちおう区分できます。

ただこれもいちおうであり、農村から動けないというのは事実上の奴隷ではないか?という疑問から、中世は実は古代の延長ではないか?という説もあります。

日本の江戸時代は「近世」といったりします。中世と近代の中間という意味です。
しかしこれもあいまいで、将軍と大名の関係は鎌倉時代の将軍と御家人の関係と同じでは?ということで江戸時代は中世だと言うこともできます。

中世が何と何の中間かの答えは、各地域の諸事情により異なってくるというのが実情です。
ここでは、古代ローマ帝国と、近代主権国家との間の、キリスト教が支配する封建制度の時代としか言いようがありません。

ただ中世といわれる時代の、世界共通の特色はあります。
宗教の発展、武力を持つ者の台頭、戦乱、農村、商業衰退、伝染病まん延などです。

*「世界」

現代的な感覚では、世界はこの地球全体の一つしかありません。
それを歴史では、西ヨーロッパ世界とか、東ヨーロッパ世界とか、イスラーム世界とか、東アジア世界とか、多数の世界が並び立っています。
パラレルワールド?異次元世界?というような感想が浮かびますね。

実は、世界といってもいろいろな使い方があります。

「あの人と私とでは住む世界が違う」という場合は、人の持つ生活手段や思考方法の違いを表し、世界とはそれが共通の人たちの集まりという意味です。
「世界と日本」という場合は、世界は、日本以外(海外)を意味します。

この中世での分立した各世界は、宗教をメインとした文化の違いに由来します。

 

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