rekisitekishikouryoku’s blog

歴史的思考力を一過性でなく継続的に身につける方法

世界史要旨把握7中世ヨーロッパ史(7)フランク王国の分裂

今回の参考資料・引用元は

山川出版社発行の教科書『世界史探究 詳説世界史』2022年検定済23年発行

P97(17行目)~P98(15行目)「分裂するフランク王国

https://new-textbook.yamakawa.co.jp/w-history

 

冒頭文チェック

カールの帝国は一見中央集権的であったが、実態はカールと伯との個人的な結びつきのうえに成り立つものにすぎなかった。

冒頭文を探究することにより、前の時代を確定し、この単元の歴史的な位置を把握することができます。
この文は、前の単元の内容を深めた内容になっています。
つまりこの単元の内容は、前の単元の時代の後の時代であり、その前の時代に存在していた事柄が原因となって生じていることが読み取れます。

 

本文要旨の把握

要旨を把握しておくことは、初めて学ぶときも重要ですが、復習をするときもその効果を発揮します。
復習段階で教科書をざっと見るということをよくすると思いますが、それは復習方法としては最悪の部類です。
要旨をきっちりと把握しておくことで、復習の意義が倍増しで増大します。
そして私が提案している<繰り返し出てくる言葉を抜き出し、その語群で作文をする>という手法が、要旨把握の手伝いをしてくれます。

この単元の段落は、4つあります。

第一段落

(カール) 後 (843年) (ヴェルダン) 条約 (メルセン) 帝国 東 西 (フランク) (イタリア) 分裂

「その(前の単元の)後、条約が結ばれ、帝国は東部・西部などに分裂した」

<いわゆる重要語の扱い>
固有名詞や歴史用語は、はっきり言って、要旨把握の邪魔になります。
よってそういう語はカッコ内に留め、参考程度に頭の片隅に置いておくというやり方をします。
これは、多くの大学入試問題にも対応したやり方だと思います。
入試問題では重要語や固有名詞が直接問われることは、ほとんどありません。その語の意味や背景や歴史的意義が問われます。
日常の学校の定期試験では重要語や固有名詞が直接問われることが多いでしょうが、それも把握した要旨に言葉を載せる形で学習したほうが理解が深まり暗記し易くなります。

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感想(3件)

<ここの要旨は>
さてこの第一段落の要旨の中に、「条約」というのがあります。
この言葉を「ふーん、条約を結んだのか」という感想で片付けてはいけません。
これは歴史的思考にもなるのですが、そもそも条約を結ぶような状況はどういう事態なのかを考えないといけません。

近代の歴史の中に、戦争という出来事があります。
その戦争を終わらせるときに、交戦していた国々はどういう行動をとりましたか?
中学までの歴史学習で習得した内容で、十分に思い出せます。
日清戦争の後は下関条約日露戦争の後はポーツマス条約、第一次世界大戦の後はヴェルサイユ条約第二次世界大戦の後はサンフランシスコ条約

そう、条約は、深刻な紛争や戦争の後始末として結ばれます。

カール大帝が亡くなった後のフランク王国内は、深刻な対立・紛争そして戦争と、混乱を極めました。(兄弟同士のいわゆる骨肉の争いでした)
その妥協点を何とか見出して結んだのが、2つの条約です。
時をあまり置かず2回も結んだわけで、その紛争がいかに深刻だったかが分かります。
その紛争の原因は歴史的な意義があまりないので割愛しますが、興味があれば調べてみてください。

第二段落

(フランク) (ドイツ) (カロリング) 家 血 絶える 支配する 諸侯 王 教皇 (ローマ) 皇帝 神聖

「ドイツではカロリング家の血が絶え、各地を支配する諸侯が王を選ぶようになった。教皇は、その王を神聖皇帝に任命した」

またまた教皇と皇帝が出てきました。
先にカール王に与えられた皇帝位はその後その子孫に継承されていたのですが、お家断絶により皇帝位は取り消しになりました。
(このことから、皇帝位は国家君主への任命ではなく、個々の皇帝への個人的な付託だと分かります)

もちろん教皇は東のビザンツ皇帝と対立状態が続いているので、対抗するため西にもう一人の皇帝を生み出す必要がありました。
ドイツ王に皇帝位が与えられたのは、偶然です。
ドイツ王オットーがたまたま、教皇のピンチを救ってくれたからでした。

しかし、しつこくローマ、ローマ、と何度も出てきますね。
この時代から数百年も前のローマ帝国の存在が、ヨーロッパ人の心に深く深く刻まれています。(当時は、その東半分がまだ存続しています)
これを「ローマ理念」と呼びます。
このローマ理念は、その後も現代にいたるまでヨーロッパに大きく影響しています。

第三段落

(血)筋 断(絶)(パリ) (カペー)

フランスでも、ドイツと同じような状況でした。
ただ皇帝位をもらえなかったのでフランス王はこの後、ドイツに大きな対抗心を抱いていきます。
国境線をめぐる争いで有名な、独仏千年紛争の始まりです。

第四段落

イタリアの情勢は、この1語だけです。
海からもイスラーム勢力が脅かしているのですが、地続きの北(ドイツとフランス)からの圧力がずーっと近代まで続いていきます。
ただアルプス山脈がその間に横たわっていて北からの圧力はほとんど長続きせず失敗するのですが、北の国々はまったく諦めることがありませんでした。
「ローマへの憧れ」がそれほど強烈だったのです。
(「ローマの休日」という映画も、大ヒットしました(笑))

もちろんイタリア人自身にも、「ローマの栄光への憧れ」が根強く残ります。
第一次世界大戦後にファシズム体制を作ったムッソリーニは、ローマ帝国の復興を掲げました。

 

思考が広がるような語を用い歴史的思考をする

<歴史的思考の難しさ>
思考が広がるような語とは、パートナーが存在する語です。
「東」という語があるなら、そのパートナーは西、あるいは北、南です。
「大きな」という語のパートナーは、小さな、です。
「中」という語は、何と何の中間なのか?どういった勢力の中心なのか?という思考の元になります。
「戴冠する」という語を見たら、誰が誰の頭の上に冠を載せるのかを考えてください。

こういう思考は実は、本文の要旨把握のときに同時に働きます。
ただ十分な知識のない状態では、この思考は働きません。
単元を初めて学ぶ段階では、そもそも歴史的思考は不可能です。

高1相当科目に「歴史総合」というものがありますが、「総合」というのは知識の全てを総じて合わせるという意味です。
知識がほとんどない状態で「総合」という行動は、不可能なのです。

よって歴史的思考というのは、本来は高3以上、大学生段階が妥当だと思います。
あるいは中学生段階で歴史の要旨を把握し、高校生段階でその応用思考をするという方法も考えられます。

このブログは、そういう難しい歴史的思考の助けをするという目的を持っています。

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<この単元の、思考が広がる言葉>

後 東 西 帝国 絶える 支配する 諸侯 王 教皇 皇帝 北

*「後」

歴史の基本語です。歴史学習の必須語です。
なお、この反対語である「前」も歴史の基本語ですが、「後」に比べると価値が少し落ちます。
歴史は、前から順番に後へ後へと並べられた記録だからです。

現代の前の時代はどうだったか?というような思考は、歴史的思考ではなく、現代社会学習の思考です。
私もその単元の最初に冒頭文を読んで前の時代を知れと言いますが、あくまで最初の部分だけです。
歴史は、前と後の2つの時代を結ぶものです。原因だけでは足りません。原因と結果の両方が必要なのです。

*「東」「西」

ここでは、フランク王国が東西などに分裂したという意味で使っています。
しかし、学習はそれで終わりません。
分裂したといっても、東の地域と西の地域、そして南の地域とは隣り同士です。
分裂して絶交してサヨウナラ、というわけにはいかないのです。

本文の要旨把握で書いたとおり、この後もこの3者は互いに対立抗争しときには戦争を起こします。
現代にいたると、一つの国際経済同盟(EU)を組んでいます。

*「諸侯」

あとは、本文の要旨把握のところや他のブログ回で触れているのでそちらを参照してくれればいいのですが、この諸侯という語についてだけ少し触れます。

これは、日本の戦国時代や江戸時代の大名たちと同様の存在です。
国内の各地域に根ざした領主や有力者たちです。

後のブログ回で書きますが、この時代は外からの侵入が多くその防衛のため各地域が個々に防備を固めていた時代です。
軍事的な統率が必要になり、地域兵力を基盤とする地域君主が多数現れます。
その軍事力を背景に、国王や国家への発言権を強めました。

ドイツでは、諸侯たちが神聖ローマ皇帝位の激しい争奪戦を繰り広げます。
名前だけの皇帝位ですが、「西ヨーロッパに君臨する」名誉は計り知れないものがありました。

 

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